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東京地方裁判所 平成7年(行ウ)54号 判決 1997年1月29日

東京都文京区湯島三丁目二九番二号

原告

大倉興業株式会社

右代表者代表取締役

大倉京斗

右訴訟代理人弁護士

佐野榮三郎

東京都文京区本郷四丁目一五番一一号

被告

本郷税務署長 芳賀忠夫

右指定代理人

仁田良行

松原行宏

太田泰暢

石黒邦夫

林裕之

主文

一  被告が平成四年一一月二七日付けで原告に対してした昭和六三年一〇月一日から平成元年九月三〇日までの事業年度の法人税の更正のうち納付すべき税額五三五三万九三〇〇円を超える部分並びに平成元年一〇月から平成三年五月まで及び平成三年六月から平成四年九月までの各期間に係る源泉所得税の納税告知(平成五年二月二五日付け及び平成七年一一月二八日付け各変更通知により一部取り消された後のもの)及び不納付加算税の賦課決定(平成七年一一月二八日付け変更通知により一部取り消された後のもの)を取り消す。

二  原告その余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、それぞれを各自の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が平成四年一一月二七日付けで原告に対してした次の各処分を取り消す。

(一) 昭和六三年一〇月一日から平成元年九月三〇日までの事業年度(以下「元年九月期」という。)の法人税の更正のうち所得金額一億一五五六万〇四五四円、納付すべき税額四九二八万九五〇〇円を超える部分

(二) 平成元年一〇月一日から平成二年九月三〇日までの事牛年度(以下「二年九月期」という。)の法人税の更正のうち欠損金額一一八七万二六二三円を超える部分

(三) 平成二年一〇月一日から平成三年九月三〇日までの事業年度(以下「三年九月期」という。)の法人税の更正のうち欠損金額一七三四万七九五四円を超える部分

(四) 平成元年一〇月から平成三年五月まで及び平成三年六月から平成四年九月までの各期間に係る源泉所得税の納税告知(平成五年二月二五日付け及び平成七年一一月二八日付け各変更通知により一部取り消された後のもの)及び不納付加算税の賦課決定(平成七年一一月二八日付け変更通知により一部取り消された後のもの)

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告は、旅館・ホテル業等を営む同族会社(法人税法二条一〇号)であるが、その元年九月期、二年九月期及び三年九月期(以下「係争事業年度」という。)の法人税につき、青色申告書により別表一1ないし3の「確定申告」及び「修正申告」欄記載のとおり納税申告をしたところ、被告は、平成四年一一月二七日付けで、原告に対し、同表一1ないし3の「更正」欄記載のとおり各更正(以下「本件各更正」といい、各事業年度の更正を「元年九月期更正」などという。)をした。

(二)  原告は、本件各更正を不服として、平成四年一一月三〇日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、右請求は、平成六年一二月一六日付けで棄却された。

2(一)  被告は、原告がその代表取締役である大倉京斗(以下「大倉」という。)に対し所得税を源泉徴収しないで給与(役員報酬)を支給したとして、平成四年一一月二七日付けで、原告に対し、別表二1及び2記載のとおり、平成元年一〇月から平成三年五月まで及び平成三年六月から平成四年九月までの各期間に係る源泉所得税を納付すべき旨の告知(以下「本件納税告知」という。)を行うとともに、その納税告知に係る不納付加算税を賦課する旨の決定(以下「本件賦課決定」という。)をした。

(二)  その後、被告は、平成五年二月二五日付けで、別表二3記載のとおり、本件納税告知を一部変更(源泉所得税額の減額)する旨の通知をし、次いで、平成七年一一月二八日付けで、本件納税告知及び本件賦課決定のうち、平成三年一〇月から平成四年九月までの期間に係る源泉所得税及び不納付加算税の税額をいずれも零円と変更する旨の通知をし、その限度で本件納税告知及び本件賦課決定は一部取り消された。

(三)  原告は、本件納税告知及び本件賦課決定を不服として、平成五年一月二二日、被告に対し、異議申立てをしたところ、国税通則法八九条に基づき、平成五年二月二五日付けで国税不服審判所長に対し審査請求をしたものとみなされ、右請求は、平成六年一二月一六日付けで棄却された。

3  しかしながら、本件各更正には、原告の所得金額を過大に認定した違法があり、また、原告が大倉に対し給与(役員報酬)を支給したとの認定には誤りがあるから、本件納税告知(平成五年二月二五日付け及び平成七年一一月二八日付け各変更通知による一部取消し後のもの。以下、右一部取消し後の本件納税告知を単に「本件納税告知」という。)及びこれを前提とする本件賦課決定(平成七年一一月二八日付け変更通知による一部取消し後のもの。以下、右一部取消し後の本件賦課決定を単に「本件賦課決定」という。)も違法である。

よって、原告は、これらの各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び2の各事実は認めるが、同3は争う。

三  抗弁

1  本件各更正の適法性

(一) 原告の係争事業年度の各所得金額は、別表三の<1>欄記載の申告所得金額に、<2>ないし<4>欄記載の金額を加算し、<6>ないし<8>欄記載の金額を控除した<10>欄記載の金額である。

(二) 本件株式の購入及び本件借入金の借入れ

原告と大倉は、昭和六二年一一月一〇日、それぞれ自らの名義で、日本電信電話株式会社の株式(以下「NTT株式」という。)各一〇〇株を各二億五五〇〇万円で購入し(以下、大倉名義で購入された右株式を「本件株式」という。)、同日、株式会社つくば商事(以下「つくば商事」という。)から、それぞれ自らの名義で、各二億六二五〇万円を借り入れ(以下、大倉名義による右借入れを「本件借入れ」といい、その借入金を「本件借入金」という。)、同月一二日、右借入金でそれぞれの株式購入代金の決済をした。

(三) 本件支払利息金の損金不算入(別表三の<2>欄記載の金額)

(1) 原告は、係争事業年度中に、本件借入金の利息(以下「本件支払利息」という。)として、つくば商事に対し別表四記載のとおり金員を支払、各所得金額の計算に際し、右支払利息(事業年度ごとの合計金額は別表三の<2>欄記載のとおり)を損金の額に算入して、係争事業年度の法人税の申告をした。

(2) しかしながら、本件借入金は大倉が本件株式の購入資金として借り入れたものであるから、本件支払利息は大倉個人の費用であり、原告が本件支払利息として支払った金員(以下「本件支払利息金」という。)は、次のとおり大倉に対する貸付金というべきであるから、本件支払利息金を原告の損金の額に算入することはできない。

すなわち、原告は、平成元年四月に東京国税局査察部(以下「査察部」という。)の強制調査を受け、売上除外等を指摘された昭和六三年九月期(昭和六二年一〇月一日から昭和六三年九月三〇日までの事業年度)の法人税ついて修正申告をしたが、その際、原告は、除外した売上等の金額のうち大倉個人の費用に充てられた額(本件支払利息金を除く。)については、これを大倉に対する貸付金(利息年五・五パーセント)とする処理をしていたものであり、本件支払利息が大倉個人の費用であって、本来、大倉が原告に返済すべき性質のものであることからすれば、本件支払利息金もまた原告自ら貸付金とした他の大倉個人費用と何ら異なるところはなく、原告の大倉に対する貸付金として処理するのが合理的であるというべきである。

(四) 租税公課の損金不算入(別表三の<3>欄記載の金額)

(1) 原告は、係争事業年度の各所得金額の計算に際し、別表五記載のとおり本件借入金に係る印紙税として支払った額及び別表六記載のとおり本件株式の配当金(以下「本件配当金」という。)に係る源泉所得税額を損金の額(事業年度ごとの合計金額は別表三の<3>欄記載のとおり)に算入して、係争事業年度の法人税の申告をした。

(2) しかし、右印紙税及び源泉所得税(以下「本件租税公課」という。)は、いずれも大倉個人が負担すべき費用であるから、原告の損金の額に算入することはできない。

(五) 受取利息の計上漏れ(別表三の<4>欄記載の金額)

右(三)の本件支払利息金と(四)の本件租税公課の合計額から後記(六)の本件配当金を控除した金額は、原告の大倉に対する無利息の貸付金であり、右貸付金については、少なくとも年五・五パーセント(原告の平成元年一〇月から平成四年九月までの間の三菱銀行からの借入金の利息は年五・七パーセントないし八・五パーセントであった。)を下らない利息相当額の経済的利益があったとみるべきであるから、次のとおり、右利息相当額を原告の所得金額の計算上益金の額に計上すべきである。

(1) 二年九月期

二年九月期当初の本件支払利息に係る貸付金は、昭和六三年九月期の更正において貸付金とされた一二七一万〇四二四円及び元年九月期更正において貸付金とされた一二八九万一八〇〇円の合計額二五六〇万二二二四円となるが、平成元年一〇月から同年一二月までの期間における一二七一万〇四二四円(昭和六三年九月期の更正において貸付金とされたもの)に係る利息については既に課税済みであることから、二年九月期中の受取利息の計上漏れ額は、次のとおり合計一二三万一九一七円となる。

イ 平成元年一〇月から同年一二月まで

一二八九万一八〇〇円に対する年五・五パーセントの割合による九二日分の利息一七万八七一九円である。

ロ 平成二年一月から同年九月まで

二五六〇万二二二四円に対する年五・五パーセントの割合による二七三日分の利息一〇五万三一九八円である。

(2) 三年九月期

三年九月期当初の本件支払利息に係る貸付金は、(1)の二五六〇万二二二四円と二年九月期更正において貸付金とされた一七四七万三九七〇円との合計額四三〇七万六一九四円となり、これに対する年五・五パーセントの割合による利息二三六万九一九〇円が、三年九月期中の受取利息の計上漏れ額である。

(六) 雑収入の益金不算入(別表三の<6>欄記載の金額)

(1) 原告は、係争事業年度の各所得金額の計算に際し、別表七記載のとおり本件配当金を益金として計上し、また、三年九月期の所得金額の計算に際しては、つくば商事からの過年度分の本件支払利息の戻入額一八六万二六七一円を益金として計上して、係争事業年度の法人税の申告をした。

(2) しかし、右の各金額は、いずれも大倉個人の収入と認められるから、原告の益金の額に算入できないものである。

(七) 役員報酬の損金算入(別表三の<7>欄記載の金額)

前記(五)(1)の二年九月期の認定利息(受取利息の計上漏れ額)一二三万一九一七円、(五)(2)の三年九月期の認定利息(受取利息の計上漏れ額)二三六万九一九〇円は、いずれも大倉個人に対する定期の給与(経済的利益の供与)と認められることから、原告の役員報酬として、右各事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入すべきものである。

(八) 事業税の損金算入(別表三の<8>欄記載の金額)

元年九月期更正により増加した所得金額に対応する事業税一五四万七〇〇〇円は二年九月期の損金の額に、二年九月期更正により増加した所得金額に対応する事業税二五万九八〇〇円は三年九月期の損金の額に、それぞれ算入すべきものである。

(九) 税額

(1) 元年九月期更正

所得金額一億二八四五万二〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により千円未満の端数切捨て)を対象として法人税法六六条(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)の規定に基づき算出される法人税額五二九八万九八四〇円と、法人税法六七条の規定に基づき別表八2及び3記載のとおり算出される課税留保金額一八九八万七〇〇〇円に対する法人税額一八九万八七〇〇円とを合計した法人税額は五四八八万八五〇〇円(国税通則法一一九条一項により百円未満の端数切捨て)であり、元年九月期更正による法人税額と同額であるから、右更正は適法である。

(2) 二年九月期更正

所得金額四〇五万四三四七円はその全てが配当に充てられたと認められるから、所得金額四〇五万四〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により千円未満の端数切捨て)を対象として廃止前の租税特別措置法四二条の二、所得税法等の一部を改正する法律(昭和六三年法律第一〇九号)附則六八条の規定に基づき算出される法人税額一〇五万四〇〇〇円(国税通則法一一九条一項により百円未満の端数切捨て)は、二年九月期更正による法人税額と同額であるから、右更正は適法である。

(3) 三年九月期更正

欠損金額四五〇万四六三九円は、三年九月期更正による欠損金額と同額であるから、右更正は適法である。

2  本件納税告知及び本件賦課決定の適法性

原告は、前記1(七)の大倉に対する役員報酬(受取利息の計上漏れ額)について源泉徴収を行っていないことから、被告は、所得税法一八五条に基づき、別表二1、2記載のとおり、平成元年一〇月から平成三年九月までの期間に係る源泉所得税につき本件納税告知を行うとともに、国税通則法六七条に基づき本件賦課決定を行ったものであって、右処分はいずれも適法である。

四  抗弁に対する認否及び原告の反論

(認否)

1(一) 抗弁1(一)のうち、原告の係争事業年度の申告所得金額がそれぞれ別表三の<1>欄記載のとおりであることは認めるが、その余は争う。

(二) 同(二)のうち、大倉が本件借入金を借り入れて本件株式を取得したとの点は否認するが、その余の事実は認める。

(三) 同(三)の(1)は認めるが、(2)は争う。

(四) 同(四)の(1)は認めるが、(2)は争う。

(五) 同(五)は争う。

(六) 同(六)の(1)は認めるが、(2)は争う。

(七) 同(七)ないし(九)は争う。

2 抗弁2は争う。

(反論)

1 本件株式は、原告が大倉の名義を借りて取得したものであり、当初から原告に帰属し、その購入資金に充てた本件借入金も実質的に原告が借り入れたものである。原告は、平成元年四月に査察部の強制調査を受けた際、本件株式を含む原告以外の名義のNTT株式はいわゆる借名取引によって原告が取得したものであるとの査察部の指導を受け、昭和六三年九月期の法人税の修正申告をし、係争事業年度の法人税の申告も行ったのであって、本件株式が原告に帰属することは査察部も了解していたものである。

仮に、本件株式が昭和六二年の購入時から原告に帰属していたといえないとしても、原告は元年九月期において、大倉との間で本件株式の売買契約を取り交わし本件株式を取得したことにして、これを受け入れたのであるから、その時点から本件株式が原告に帰属することを前提とする税務処理が行われるべきである。

2 仮に、本件借入金が原告の借り入れたものでないとしても、本件支払利息金を原告の大倉に対する貸付金と認定し、さらにその貸付金に対し年利五・五パーセントの受取利息を認定した上で、これを大倉への役員報酬とすることは無理に無理を重ねた処理であって、本件支払利息金を貸付金を認定した以上は、その利息についても未収利息として処理するのが自然であり、これを役員報酬としなければならない理由は見出せない。また、受取利息の認定にあたり、利率を年五・五パーセントとすることは、公定歩合をはじめとする昨今の低金利の実態に照らして不合理といわねばならない。

第三証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

第一課税処分等の経緯

請求原因1及び2の各事実は当事者間に争いがない。

第二本件各更正の適否について

一  抗弁1(一)のうち、原告の係争事業年度の申告所得金額がそれぞれ別表三の<1>欄記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

そこで、以下、被告主張の加算・減算項目について検討することとする。

二  本件株式及び本件借入金の帰属について

1  抗弁1(二)のうち、大倉が本件借入金を借り入れて本件株式を取得したとの点を除くその余の事実は、当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、弁論の全趣旨により成立の真正を認める乙第一九、第二〇号証、第二六、第二七号証並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 大倉は、昭和六二年一〇月ころ、かねてより親交のあったつくば商事役員の日置勝巳(以下「日置」という。)から誘われ、原告とつくば商事が共有する座間市相武台所在の土地建物を担保に資金を借り入れてNTT株式を購入することとし、日置が丸万証券株式会社東京支店にNTT株式四〇〇株の取得の手配を依頼したところ、同店から同株数を用意できるとの回答を得た。日置としては、つくば商事と原告とで二〇〇株ずつ購入するつもりでいたが、大倉が原告名義及び大倉名義で各一〇〇株ずつ取得することを希望したことから、右NTT株式四〇〇株の取得名義の内訳は、結局、つくば商事名義で二〇〇株、原告名義及び大倉名義で各一〇〇株ずつとされた。そこで、東海銀行と取引のあったつくば商事が、原告を保証人、購入したNTT株式を担保として、昭和六二年一一月一〇日、東海銀行から一〇億五〇〇〇万円を借り入れることとし、そのつくば商事を貸主として、原告名義による二億六二五〇万円の借入れ及び大倉名義による本件借入れが行なわれ、同月二二日、右借入金をもって、原告名義の株式一〇〇株及び大倉名義の本件株式の各購入代金の決済がされた。

(二) 原告は、NTT株式を購入した日の属する昭和六三年九月期の法人税の確定申告に際し、「有価証券の内訳書」にNTT株式一〇〇株を二億五五〇〇万円で買い入れた旨を、「借入金及び支払利子の内訳書」に東海銀行飯田橋支店からの借入金として(正しくは、つくば商事からの借入れである。)二億六五〇〇万円をそれぞれ記載し、確定申告書に添付して提出した。

一方、大倉も、昭和六三年分所得税の確定申告に際し、「財産及び債務の明細書」に本件株式を含むNTT株式一七〇株及び東海銀行飯田橋支店からの借入金(正しくは、つくば商事からの借入金である。)二億六二五〇万円を、「所得の内訳書」に右NTT株式一七〇株の昭和六三年六月及び同年一二月支払分の配当金収入各四二万五〇〇〇円、配当所得の金額の計算上控除される負債の利子として本件支払利息一四二一万三八三五円をそれぞれ記載し、確定申告書に添付して提出した。

(三) 本件株式の株主名簿上の名義は、昭和六三年三月二五日に大倉名義に変更され、係争事業年度中に他に変更されたことはなかったし、また、係争事業年度中に支払われた本件配当金(源泉所得税徴収後のもの)は、全て大倉名義の銀行口座に振り込まれていた。

2  右認定した事実によれば、本件株式は、大倉がつくば商事から本件借入金を借入れ、これを資金として自ら購入したものであって、本件株式及び本件借入金はいずれも大倉個人に帰属し、原告に帰属するものではないと認めるのが相当である(なお、原本の存在及び成立に争いのない乙第三、第四号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和六三年九月期の法人税についても、その所得金額の計算上本件支払利息金を損金の額に算入して、修正申告をしたため、被告が、本件と同様、右損金算入を否認して更正をしたところ、原告は、これを不服として、その取消しを求める訴えを提起したが、平成六年二月二二日、本件借入金は大倉が借入れたものであるとの認定の下に、請求棄却の判決を受け、控訴審においても、同年一〇月二七日、控訴棄却の判決がされ、右判決は既に確定していることが認められる。)。

3  原告は、本件株式は、大倉の名義を借りて原告が取得したものであり、本件借入金も実質的に原告が借入れたものであって、本件株式が原告に帰属することは査察部も了解していた旨主張する。

しかし、本件株式の購入及び本件借入れがいずれも借名取引であったとの原告の主張は、これを裏付ける資料がなく、前記認定の事実に照らし採用することができない。また、本件株式が何人の所有に帰属するかの問題は、客観的な事実によって定まるものであって、査察部ないし担当係官が了解したかどうかによって左右されるべき性質の問題でないことはいうまでもないが、その点はともかく、原本の存在及び成立に争いのない乙第一五号証、弁論の全趣旨により成立の真正を認める乙第一七号証、第二二号証によれば、原告は、平成元年九月二〇日、査察部に対し、本件株式は原告が取得したものであるとの上申書を提出し、本件株式及び本件借入金はいずれも原告に帰属する旨主張して、そのように取り扱うよう要請したものの、査察部は、これを拒否していたことが認められ、査察部において本件株式が原告に帰属することを了解していたとの事情は窺われないのであって、この点に関する原告の主張はその前提を欠き失当である。

なお、原告は、元年九月期において、大倉との間で本件株式の売買契約を締結して本件株式を取得したとも主張しているが、原告は、昭和六三年九月期はもとより係争事業年度を通じ一貫して、本件株式は購入当初から原告に帰属する旨主張しているのであって、元年九月期に大倉と売買契約を締結して本件株式を取得したというのはいかにも不自然であるし、現に、元年九月期以降、係争事業年度中には、株式の名義変更もされていないし、本件配当金も大倉の銀行口座に振り込まれていたのであって、原告主張のような大倉との売買の事実を認めるに足りる証拠はなく、原告の右主張も理由がない。

三  本件支払利息金の損金不算入

1  抗弁1(三)の(1)は当事者間に争いがない。

2  前示のとおり、本件借入金は大倉が本件株式購入のために借り入れたものであるから、本件支払利息は借主である大倉において負担すべきもので、原告の債務でないことはいうまでもなく、原告によるその支払は、代表取締役である大倉の債務を大倉に代わって支払ったものというべきであって、本件支払利息金が原告の当該事業年度の費用(法人税法二二条三項二号)ということができないことは明らかである。

3  そこで、本件支払利息金の性質についてみるに、被告は、原告が昭和六三年九月期において除外した売上等の金額のうち大倉個人の費用に充てられた分を大倉に対する貸付金とする処理をしていること、本件支払利息も大倉個人の費用であって、本来、大倉が原告に返済すべき性質の金員であることからすれば、本件支払利息金もまた原告の大倉に対する貸付金として処理するのが合理的である旨主張する。

しかしながら、原告の本件支払利息の支払をとらえて大倉に対する貸付けというためには、単にこれを貸付金と取り扱うことが合理的であるというだけではなく、少なくとも大倉と原告との間に、当該金員について明示又は黙示による返済の合意があるといえることが必要であるところ、原本の存在及び成立に争いのない乙第一、第二号証、第六ないし第九号証、成立に争いのない乙第一八号証、前掲乙第一七号証、第二二号証並びに弁論の全趣旨によれば、<1> 査察部は、平成元年四月に原告に対し強制調査を行った際、原告が昭和六三年九月期以前の四事業年度の法人税の確定申告において計上していなかった売上等のうち、大倉個人の費用に充てられたものについては、大倉に対する認定賞与とすべきであると考えていたが、原告がこれを大倉に対する貸付金として処理してほしい旨要請したことから、査察部は右要請を了解し、右大倉個人の費用に充てられた金額(一億六五八三万二〇九五円)を大倉に対する貸付金として修正申告をするよう原告に促したこと、<2> 右売上除外等のうち大倉個人の費用に充てられた金額の中には、昭和六三年九月期中に支払われた本件支払利息金一二七一万〇四二四円も含まれていたが、原告は、平成二年五月二一日、本件借入金は、原告に帰属するものであるとして、右支払利息金(一二七一万〇四二四円)を損金の額に算入し、前記売上除外等のうち大倉個人の費用に充てられた金額(一億六五八三万二〇九五円)から右支払利息の額を差し引いた一億五三一二万一六七一円のみを貸付金の額とする昭和六三年九月期の法人税の修正申告を行うとともに、右一億五三一二万一六七一円を大倉に対する貸付金とする平成二年五月一六日付け金銭借用証書及び右貸付けを承認する旨の原告の同日付け取締役会議事録を作成したこと、<3> 原告は、係争事業年度の納税申告においても、本件借入金は原告に帰属するものであるとして、各事業年度における本件支払利息金を原告の損金の額に算入していることが認められる。

右事実によれば、原告は、売上除外等に係る金員のうち大倉個人の費用に充てた金額については、昭和六三年九月期において、これを大倉に対する貸付金とする処理をしたものであるが、同事業年度中に支払った本件支払利息金については、右貸付金の対象から除外していることが明らかであるから、原告が右売上除外等に係る金員について大倉に対する貸付金の処理をし、金銭借用証書等が作成されているからといって、当然に係争事業年度における本件支払利息金はもちろん、昭和六三年九月期における本件支払利息金について、大倉が原告に返済する旨の明示又は黙示の合意があったものと推認することはできず、他に右合意の存在を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、原告が支払った昭和六三年九月期及び係争事業年度における本件支払利息金をもって、原告の大倉に対する貸付金ということはできず、被告の主張は失当といわざるを得ない。

4  右のとおり、本件支払利息金を大倉に対する貸付金とみることはできないが、原告は大倉を代表取締役とする同族会社で、大倉が昭和六三年分所得税の確定申告に際し、本件株式及び本件借入金をそれぞれ自己の財産及び債務として、また、本件配当金及び本件支払利息をそれぞれ自己の収入及び負債利子として申告していたことは、前記認定のとおりであり、また、成立に争いのない乙第一六号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、査察部の強制調査を受けた後、平成元年九月末日までは、本件支払利息金を大倉に対する仮払金として会計処理をし、同日付けで仮払金勘定から支払利息勘定に振替処理をしたことが認められるのであって、これらの事実からすると、原告としては、本件支払利息を原告が負担すべき債務と誤信して支払っていたものではなく、大倉個人において負担すべきものであることを承知しながら、原告の資金でこれを支払っていたものと推認することができ、そうすると、原告は、本件支払利息を大倉に代わって支払ったことによって、大倉に対し、右支払相当額の経済的利益を供与したものということができるから、本件支払利息金は、大倉に対する右支払相当額の給与の支給に当たるとみるのが相当である。そして、係争事業年度における本件支払利息の支払の回数、態様などからすれば、右支払は法人税法三五条四項にいう「臨時的な給与」の支給であって、同条一項所定の「賞与」の支給に当該するというべきであるから、右支払額を原告の損金の額に算入することはできず、被告がその損金の額への算入を否認したことは結果的に正当ということができる。

四  本件租税公課の損金不算入

抗弁1(四)の(1)は当事者間に争いがないところ、前示のとおり、本件株式及び本件借入金はいずれも大倉個人に帰属するものであるから、本件租税公課は大倉において負担すべきものであり、本件租税公課の金額を原告の損金の額に算入することはできない。なお、本件租税公課のうち原告が現実に支払った印紙税相当額については、その支払の回数、態様などから、本件支払利息金と同様に、大倉に対する法人税法三五条一項所定の「賞与」に当該するというべきであるから(本件全証拠によっても、本件租税公課相当額が原告の大倉に対する貸付金に当たると認めることはできない。)、これを原告の損金の額に算入することもできない。

五  受取利息に関する益金算入と役員報酬としての損金算入

被告は、本件支払利息金と本件租税公課の合計額から本件配当金を控除した金額を大倉に対する無利息の貸付金ととらえ、その貸付金に対する利息相当分(年五・五パーセント)を計算して、これを大倉に対する役員報酬であるとして、原告の所得金額の計算上、右利息相当分を益金の額に計上するとともに、役員報酬として損金の額に算入すべき旨主張するものである。

しかし、既に検討したとおり、原告の昭和六三年九月期及び係争事業年度における本件支払利息の支払が大倉に対する貸付けに当たるということはできず、また、本件租税公課相当額が原告の大倉に対する貸付金に当たるということもできないから、被告が主張する受取利息を原告の益金の額に計上することはできないし、その受取利息相当額を役員報酬として損金の額に算入することもできないのであって、被告の右主張はいずれも失当といわざるを得ない。

六  本件配当金の益金不算入

抗弁1(六)の(1)は当事者間に争いがないところ、前示のとおり、本件株式及び本件借入金が大倉個人に帰属する以上、本件配当金及びつくば商事からの過年度分の利息戻入分はいずれも大倉個人の収入というべきであるから、これらを原告の益金の額に算入することはできない。

七  本件各更正の適法性

1  元年九月期更正

別表三の<1>欄記載の申告所得金額に、同表の<2>及び<3>記載の各金額を加え、同表の<6>の金額を減じて算出される原告の所得金額は、同表三の<10>欄記載の金額であって、元年九月期更正における所得金額と一致し、右所得金額に対する法人税額は当時施行の法人税法等に従って適法に算出されたものと認められる。

しかし、本件支払利息金及び本件租税公課のうち印紙税相当額は、原告の大倉に対する貸付金ではなく賞与であって、これを被告主張のように留保所得金額に算入すること(別表八2)はできないから、留保所得金額は一億一四四一万二五〇二円、課税留保金額は五四九万五〇〇〇円、課税留保金額に対する法人税額は五四万九五〇〇円となる。

したがって、元年九月期更正のうち、所得金額及び課税留保金額に対する各法人税額の合計五三五三万九三〇〇円を超える部分は違法であって、右更正はその限度で取消しを免れない。

2  二年九月期更正

元年九月期更正による増加所得金額に対応する原告の二年九月期の事業税額は、二年九月期の損金の額に算入するのが相当であるところ、弁論の全趣旨によれば、その事業税額は一五四万七〇〇〇円と認められる。

そうすると、別表三の<1>欄記載の申告所得金額に、同表の<2>及び<3>記載の各金額を加え、同表の<6>及び<8>の各金額を減じて算出される原告の所得金額は、同表三の<10>欄記載の金額であって、二年九月期更正における所得金額と一致し、右所得金額に対する法人税額は当時施行の法人税法等に従って適法に算出されたものと認められるから、右更正は適法である。

3  三年九月期更正

二年九月期更正による増加所得金額に対応する原告の三年九月期の事業税額は、三年九月期の損金の額に算入するのが相当であるところ、弁論の全趣旨によれば、その事業税額は二五万九八〇〇円と認められる。

そうすると、別表三の<1>欄記載の申告所得金額に、同表の<2>及び<3>記載の各金額を加え、同表の<6>及び<8>の各金額を減じて算出される原告の所得金額(欠損金額)は、同表三の<10>欄記載の金額であって、三年九月期更正における所得金額(欠損金額)と一致するから、右更正は適法である。

第三本件納税告知等の適否について

本件納税告知は、原告が大倉に対する前記の受取利息相当額の役員報酬について源泉徴収を行っていないとして行なわれたものであるが、被告主張の貸付金の存在は認められず、したがって、その利息相当額の役員報酬が存在しないことは既に説示したとおりであるから、本件納税告知は、存在しない税額を告知したもので違法であり、また、本件納税告知を前提とする本件賦課決定も違法であって、いずれも取消しを免れないというべきである。

第四結論

以上の次第で、本件請求は、元年九月期更正のうち納付すべき税額五三五三万九三〇〇円を超える部分並びに本件納税告知及び本件賦課決定の取消しを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法八条、民事訴訟法八九条、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤久夫 裁判官 岸日出夫 裁判官 徳岡治)

(別表一1) 本件各更正の経緯

<省略>

(別表一2) 本件各更正の経緯

<省略>

(別表一3) 本件各更正の経緯

<省略>

(別表二1)

源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分の経緯

<省略>

(別表二2)

源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分の経緯

<省略>

(別表二3)

<省略>

(別表三) 被告主張の所得金額

<省略>

(別表四) 本件支払利息の明細

<省略>

(別表五) 印紙税の明細

<省略>

(別表六) 源泉所得税の明細

<省略>

(別表七) 本件配当金の明細

<省略>

(別表八) 平成元年九月期の課税留保金額等の計算

1 所得金額に対する法人税額の計算

<省略>

2 留保所得金額の計算

<省略>

3 課税留保金額及び税額の計算

<省略>

4 法人税額の合計額の計算

<省略>

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